本稿では、患者様に横向き顎引き嚥下姿勢を保持していただいて訓練を行いました。訓練の時に患者様に姿勢を保持していただくことは、なかなか難しいことです。しかし、横向き顎引き嚥下姿勢という高い再現性が必要な姿勢をコレクトウェルで維持することが、リハビリテーションの成功につながりました。
コレクトウェルは、適切な頭部回旋姿勢の維持を可能にする、世界でただ一つの装具です。
来院時患者背景
対象患者様は、食事の時に誤嚥し、誤嚥性肺炎を発症して入院され、摂食嚥下時の正しい頭部位置を保持することが困難な状況でした。肺炎治療と並行して、誤嚥の原因をVFにて精査しました。その結果、横向き顎引き嚥下姿勢を取って摂食することにより、誤嚥を回避できることが分かり、訓練時には本姿勢を採用することにしました。しかし従来の図示による指示や言葉による説明だけでは、患者が正確な嚥下姿勢を習得するには限界があり、さらなるサポートが必要でした。
横向き顎引き嚥下法のメリット
横向き嚥下姿勢では、頸部を回旋することで、回旋側の梨状窩が狭くなり、非回旋側の梨状窩が広くなります。同時に、非回旋側の食道入口部静止圧が低下します。回旋によって生じる咽頭内の変化を利用して、食塊を咽頭の非回旋側へと誘導し、誤嚥の防止や咽頭残留軽減を達成します。
コレクトウェルの導入
開発者が作成したプロトコールに則りリハビリテーションを開始し、満を持して嚥下訓練を開始しました。嚥下訓練にあたっては、さらなるサポートとしてコレクトウェルを導入しました。
誤嚥性肺炎を起した患者様に、横向き顎引き嚥下の姿勢を食事中に維持していただくことは、なかなか難しいことです。ただ左側を向いて嚥下して、と指示しても、患者様はどの辺まで左側を向けばよいのか分かりません。さらなるサポートとして姿勢を具体化するために、コレクトウェルを導入しました。患者様は頭部を左側に回旋するときに、左側の適切な位置を認識することができ、そこで左側への頭部を回す動作を留めることができるようになります。
嚥下訓練
嚥下訓練は、まず口の中に食物を運ぶ工程、その食物を咀嚼する工程、嚥下のための助走として頭部を左側に回す工程、そして嚥下する工程があります。患者様がこれらの工程を一連の動作として淀みなく行えるようになるまで、訓練が続きます。
コレクトウェルの調整を再現画像で説明
患者様が横向きで嚥下できるようにコレクトウェルの形状を調整します。この方の場合は、左向きで嚥下していただく必要がありました。
左向きの位置が再現しやすいように、左側のアゴが乗る部分を少々低く成形し、患者様が左側を向いた時に、適切な位置を認識しやすいように調整しました。さらに分かり易くするために、アゴを載せる位置にテープを巻き付けて、アゴを回した時に位置を感じやすくすることもできます。
このようにマークすると頭部回旋の終点をアゴで知覚することができます。
横向き顎引き嚥下姿勢を習得した患者様 実例のご紹介
嚥下訓練を終了し、自力摂食で患者様が食事をされる動画から、抜粋しました。
正面を向いて食事を口の中に入れます。
何度か咀嚼し、嚥下の準備をします。
嚥下のために横を向き、そして嚥下する工程
この方のケースではアゴ下に当たるテープでマークしていません。しかし、患者様はどの位置まで頭部を回せばよいか、既に学習されています。指定の位置まで頭部を回し、おもむろに嚥下します。嚥下が終わると、次の一口を食べるために頭部を正面に向けます。この作業を繰り返し、食事を完了します。この一連の動作を反復して行います。
患者様は正しい位置を学習し、自力で反復することができるようになっています。横向き顎引き嚥下法を患者様がマスターした本段階では、食事の都度スタッフの見守りが不要となります。
コレクトウェルの臨床的な意義
コレクトウェルを用いることで、言語聴覚士による嚥下姿勢の指導がより効果的となり、誤嚥性肺炎のリスクを抱える患者の安全な嚥下習得をサポートすることが可能となります。
コレクトウェルを適切に使用することで、嚥下動作の安全性を確保し、患者のQOL向上に寄与することが期待されます。
監修 上田恵介(医師)
コレクトウェルは、嚥下時の姿勢調整に使用できる世界でただ一つの装具です。
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